2025年10月26日と27日。
東京ドームに鳴り響くのは、長い年月を経てもなお多くの人々を惹きつけるOASISの音だ。
兄弟の確執を超えて再び同じステージに立つ――そんな奇跡の再結成が現実となるだけでも、ロック史に残る瞬間だが、そこにもうひとつのサプライズが加わった。
スペシャルゲストとして登場するのは、日本のロックバンド ASIAN KUNG-FU GENERATION(アジアン・カンフー・ジェネレーション)。
海外ロックファンの多くは、初めてその名前を聞くかもしれない。
だが、彼らは2000年代の日本ロックシーンを牽引し、いまなお多くのバンドに影響を与え続ける存在だ。
そして何より、OASISと共鳴する「ギター・ロックの魂」を、言葉の壁を越えて鳴らし続けてきた。
英語ではなく、日本語でロックを鳴らすという挑戦
アジカンは1996年、大学の軽音サークルで結成された。
メンバーは後藤正文(Vo&Gt)、喜多建介(Gt&Cho)、山田貴洋(Ba&Cho)、伊地知潔(Dr)。
4人は横浜を拠点に活動を始め、インディーズ時代から一貫してオルタナティブ・ロックとブリットポップに影響を受けたギターサウンドを鳴らしてきた。
だが彼らが特別だったのは、英語ではなく“日本語”でロックをやり通したことだ。
海外の音に憧れながらも、母語で自分たちのリアルを描く。
それはまるで、マンチェスターの少年たちが自分たちの街の憂鬱をロックに変えたように、横浜の大学生たちが自分たちの想いを音に刻んだようなものだった。
彼らの音楽はシンプルで力強い。
太いギターリフ、鋭く刻まれるリズム、そして耳に残るメロディ。
けれどそこにあるのは、ただの模倣ではない。
文学的な言葉選び、都市の孤独を描く詩情、そして爆発的なライブの熱量。
それがアジカンというバンドの核であり、OASISの「メロディと誠実さ」にも通じるスピリットだ。
OASISとの共鳴 ― メロディと信念のロック
アジカンのボーカル・後藤正文(通称ゴッチ)は、数々のインタビューでOASISやRADIOHEAD、BLURといった90年代UKロックからの影響を語っている。
しかし彼が単なるフォロワーに終わらなかったのは、音楽を“信念の表現”として鳴らしてきた点だ。
OASISが「ロックンロールは生きることそのものだ」と叫んだように、
アジカンも「音楽は現実を照らす灯りだ」と信じてきた。
彼らの歌詞は、日常に埋もれた痛みや、社会への違和感、そしてそれでも前へ進む希望を描く。
それはOASISの「Don’t Look Back in Anger」や「Live Forever」に流れるメッセージとどこか重なる。
絶望を知っているからこそ、鳴らす音に意味がある。
その誠実さが、アジカンの音を“日本語のOASIS”と評されるゆえんでもある。
ライブでこそわかる、アジカンの真価
OASISファンがアジカンのライブを見るとき、まず驚くのはその演奏のタイトさだろう。
派手な演出やパフォーマンスはほとんどない。
だが、音が鳴った瞬間に空気が変わる。
一音一音が研ぎ澄まされ、会場全体がまるでひとつの楽器のように共鳴していく。
MCは少なく、ほとんどがノンストップ。
それでも、観客が叫び、拳を突き上げ、涙を流す。
それは言葉ではなく“音”で繋がるライブだ。
そしてその一体感こそが、彼らが20年以上にわたり愛されてきた理由である。
初めて聴くならこの曲 ― アジカンのライブ定番曲5選
「リライト」
代表曲にして、ライブで最も熱狂が起きる瞬間。
イントロのギターが鳴った瞬間、観客が爆発する。
「消して ええええええ!」と全員が叫ぶコールは、まるで「Don’t Look Back in Anger」の大合唱のように魂を震わせる。
「ソラニン」
浅野いにお原作の映画主題歌として知られるが、ライブではさらに深く響く。
メロディの美しさ、言葉の切なさ、そして後藤の歌声に宿る祈り。
「生きる意味」を問いかけるロックバラードだ。
「君という花」
2000年代初期、アジカンを一躍有名にした疾走曲。
跳ねるようなリズムとギターリフ、観客が手を上げて揺れる光景。
まるでOASISの「Cigarettes & Alcohol」を初めて聴いたときの高揚感に似ている。
「ループ&ループ」
反復するギターとメロディが中毒性を生み出す一曲。
ループの中で少しずつ世界が開けていく感覚は、OASISの「Supersonic」に通じる快感がある。
「アフターダーク」
夜の街を駆け抜けるような疾走感と憂い。
終盤のギターの重なりは圧巻で、ライブを締めくくるにふさわしい名曲。
(+アンコールで披露されることも多い「遥か彼方」や「荒野を歩け」も要チェック。
近年のアジカンはメロディの深みと歌詞の成熟が増し、今こそ聴き頃だ。)
変わらない誠実さ、変わり続ける音
デビューから20年以上が経っても、アジカンは進化を止めない。
最新アルバム『プラネットフォークス』(2022)は、社会や環境問題をテーマにしながらも、決して説教臭くならない。
音の奥にはいつも「個人としての誠実さ」が息づいている。
OASISが世界中の若者に“生きる誇り”を与えたように、
アジカンもまた日本のロックファンに“考える勇気”を与えてきた。
時代や立場が変わっても、彼らの音は一貫して“希望を探すロック”なのだ。
OASIS × ASIAN KUNG-FU GENERATION ― 二つの魂が交わる夜
今回の共演は、単なる世代や国境を超えたコラボではない。
それは、ロックという言葉のない対話だ。
OASISが築いたUKロックの血脈を、アジカンが日本語で受け継ぎ、そして自分たちの形で鳴らしてきた。
彼らが同じステージに立つということは、
ロックがまだ生きていることの証明でもある。
流行でも、ノスタルジーでもなく、“今この瞬間”の音として鳴らされるロック。
それを目撃できる観客は、間違いなく幸運だ。
最後に ― “世界が狭くなる夜”に立ち会おう
OASISのメロディを愛するすべての人へ。
アジカンの音は、きっとあなたの心にも届くはずだ。
言葉がわからなくてもいい。
彼らのギターが鳴った瞬間、その熱と誠実さは伝わる。
10月の東京ドームで鳴るその音は、
マンチェスターと横浜、イギリスと日本、
二つの街を繋ぐ一本のラインになる。
その夜、世界は少しだけ狭くなり、ロックは再び僕らの手に戻ってくる。
そしてその真ん中に、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが立っている。


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